箱船航海日誌 2010年09月

日々雑感、出来事などを思いつきに任せて綴っていこう

過去の日誌コンテンツ

’10/09/30 (木)

ナンギな依頼


 最近の拙日誌を読んでくれた旧い友達から、1個のMC-L1000が送られてきた。「音がひどく歪むし、針飛びも多く、使い物にならない。スタイラスの磨耗かと思ったが、どうもプリントコイルの汚れもあるようだ。検査し、必要なら掃除して欲しい」というわけである。

 謹んで固くお断り申し上げた。当然である。仮令旧い友達と言えども、他人様のL1000を触るなど、そんな恐ろしいことができるわけはないのだ。検査するなら然るべきプロがいるはずだから、ソチラへ依頼してくれ、と。

 ところが友達諦めない。「現状使えないでいるわけだし、このままでは今後も使えない。ぶっ壊してもいいから、タノム、やってみてくれ」と食い下がる。うーむ弱った。では、ともかくは見るだけと、とうとう押し切られてしまった。

 まず、何も触らずプリントコイル周辺を拡大視する。この時点で、磁気ギャップに相当の埃が溜まっていることが確認できた。ブロワーで軽く吹いてみるも、埃まったく動じず。第二段階、下部カバーを取り外し、磁気回路全体を、拡大視して、僕はもう物理的真実ひっくり返ってしまいました。

 上の写真がその様子である。鉄粉だか糸ゴミだか埃だかで、磁気ギャップは完全に埋まり、スキマが見えない。前後がつながってしまっているのだ。プリントコイルは、その中に半ば埋没したような状態である。ヨークには点々と錆が浮き、おそらくギャップ埋まりの一因にもなっていそうだ。これはエラいこっちゃ。

 スピーカーに喩えれば、ボイスコイルがギャップの中で埃に固められたような状態である。まともな音が出るはずもない。ただ、ダンパーは健全、スタイラスにも不グワイがなさそうであるのは、せめてもの救いである。

 さて、この難物を、どーするかなあ。

’10/09/29 (水)

プリントコイル


 滅多に撮れないMC-L1000のプリントコイル近影(40倍)である。これも、友達から借りている実体顕微鏡あればこそ。やや右に偏って見えるのは、カンチレバーがヒン曲がっているのではない。両眼視すべき接眼レンズの、片眼像を撮影しているからである。

 それにしても、何という微細さだろうか。コイルのパターン幅は、ミクロンオーダーである。まさにゲージツ的。この繊細微妙なコイルから、カンチレバーに沿ってこれまた微細なリード線(プリントコイルと一体型)が後方へ伸びている。

 MC-L1000の音が出なくなるトラブルのほとんどが、このコイル断線か、或いはリード線断線だと仄聞する。コイル・リード線は、樹脂様のもので固められている。これらに扱いの不備、強烈な振幅、経年劣化、などの要素が複合的に作用しクラックが入れば、一巻の終り、とゆーわけだ。修復は、事実上不可能である。

 僕は、扱いの不備によって、1個のL1000を断線させている。スタイラスをクリーンに保つばかりに気を取られ、クリーナー液(アルコール)の使用過多でプリントコイルを濡らし、固定樹脂を変形させてしまったのだ。これほどに微細なパターン、樹脂が歪めば一発断線である。

 それ以来、クリーナー液の類は一切使わない。密集型ブラシでドライクリーニングするだけである。羹に懲りて膾を吹く、ではないけれども、それほどに用心すべきものだと、僕は思う。

 されど、経年劣化は如何ともし難く。

’10/09/28 (火)

補修の功罪


 ひとまずは正常な状態へ復帰させることができた、と思われる、ダンパーヘタリのMC-L1000である。現状、快調に動作している。

 個人的には諸手を挙げて喜んでいるけれども、冷静になって考えれば、やはり功と罪があることを否めない。

 功のほうは明らかである。完全に再生不可能状態のカートリッジが復活する。尤も、最初からそれを狙っていたわけだから、当たり前のこととも言える。

 罪については、いろいろある。まず、音は出ているものの、それが真実本当にマットウなMC-L1000の音かどうか、大いに疑問が残る。劣化し弾性を失ったダンパーを回復させた、といえば聞こえはよい。しかし、設計通りの弾性に復帰しているかどうか、極めてアヤシイ。というよりも、絶対にそうはなっていないと考えるべきだろう。

 もう一点は、耐久性の問題である。弾性エポキシ接着剤が、いつまで現在の状態でいられるのか。一月や二月でダメになるとは思えないが、5年10年となるとまったくわからない。もとより正規の目的外に使用しているわけで、どんな不グワイが出るかの検証などは、まったくできていないのである。

 音については、健全なMC-L1000との比較試聴で何かわかるかもしれない。そこで「音が違う」と判明しても、これ以上どーしよーもないわけだ。L1000のようでL1000でない、ベンベン。それをきっちり自覚していれば、個人的に使う分には問題ない。と思う。

 経年劣化、これは時間をかけて様子を見るしか方法がない。再生音、クリアランスの状態などを監視し、時々は下部カバーを開け、塗布した接着剤の様子を調べることも必要か。それで壊してしまったら、元も子もないな。

 結論。やはり何方にでもお薦めできるような補修ではない。どうにもならなくなったMC-L1000を復活させる、最後の最後の手段である。

 良い子は決してマネしないでください。

’10/09/27 (月)

補修完了


 僅かの量の接着剤を追加塗布し、補修作業を終わった。電気回路にダメージはないかどうか、クリスタルイヤホンで導通を確認。どうやらOKのようだ。下部カバーを被せ、全作業完了である。作業中の画像はありません。そんな余裕は、ないのである。

 上の写真は、実際にLPを再生してみたところである。盤は回転している。24日の写真では盤を停止させた状態だった。それと比較して、ほとんど差がない。針圧はどちらも1.5gである。つまり、補修第一段階終了時よりも、ほんの僅かながら、クリアランスが大きくなったわけである。

 もう少し何とかならんか、というスケベ根性はまったくない。と言えばウソになる。けれども、この辺りで矛を収めておいたほうが無難だろうと、思う。工作名人の友達からも、そのようなアドバイスがあった。ありがたく拝受するのである。

 今のところ、音に特段の問題はなく、正常に鳴っている。但し、まさに「今のところ」であって、この状態が永く継続・保持できるかどうかは、何とも言えず。一時的な回復に終わる可能性も、大いにあるのだ。

 ともかくは、作業無事完遂を素直に喜びたい。

’10/09/26 (日)

要、熟練


 写真は、補修第一段階を終わったMC-L1000ダンパー部の拡大画像である。顕微鏡の接眼レンズにデジカメを押し当てて撮ったものだから、イマイチ不鮮明なことはご容赦願いたいのである。

 倍率は40倍、カンチレバーの奥に見えるのは、φ0.128mmのテグスである。このような像を覗きながら作業するわけだ。極めて困難。倍率を20倍に下げても同様である。ダミーL1000で幾度か練習してみたが、手がブルブル震えて的が定まらない。コリャだめだと、顕微鏡視下での作業はあっさりと断念する。

 第一段階と同様、肉眼視で微量の接着剤を追加塗布する。そのグワイを確認するに顕微鏡を使うことにした。

 ダメモトとはいえ、むざと壊してしまうのも、馬鹿馬鹿しいのである。

’10/09/25 (土)

強力な味方


 当初は第一段階で補修を終わるつもりだった。改善の余地ありを知りながら、これ以上手を出すと却って改悪になるか、最悪のバヤイ壊してしまいそうだったからである。

 第二段階へ進む決心をした、その理由が、上の写真に見えるツールである。実体顕微鏡。工作名人の友達が「カートリッジ補修ならこれが便利」と、わざわざ送り届けてくれたのだ。何ともありがたいことである。

 倍率は、20倍・40倍の切替式。これがあれば、作業してはルーペで確認する煩わしさから完全に解放される。しかも、両手がフリーになるから、拡大像下での作業が可能になる。第一段階で追いこみ切れなかった微細な部位の補修ができるかもしれないのである。

 ただし、実際に使うにはかなりの練習が必要である。顕微鏡視野での作業は距離感・方向感がつかみにくく、不慣れな者には裸眼視下より危険が大きいとも言える。何を使って練習しようか。そこのところに友達の抜かりはない。練習用ダミーとして、プリントコイル断線で音が出なくなったMC-L1000を同梱してくれたのである。

 これが作業練習に有用であることはもちろん、それとは別に、大きく役立ったことがある。プリントコイルは断線しているけれども、ダンパーはまったく劣化しておらず健全である。つまり、正常なカンチレバーの位置、延いては磁気ギャップに対するプリントコイルの正しい位置を知る、恰好の見本となったのだ。

 より完全に近い補修を実現するためのツールは揃った。あとは練習を重ね、作業を事故なく確実に完了するだけである。

 それが最大の難関なのだが。

’10/09/24 (金)

クリアランス 1mm確保


 接着剤の完全硬化を待ち、本体をシェルに着け、いよいよ試聴である。補修が成功しているかどうか、よりも、正常に音が出るかのほうが心配である。分解・作業・組み立ての過程で、どんなしくじりをやらかしているか、わからないのだ。

 標準的適性針圧、1.5gを印加し、まずは盤を回転させない状態で針を降ろしてみたのが、上の写真である。盤面と本体底面とのクリアランスは、1mm以上取れている。真実健全な個体では1.5〜2mm程度あるから、まだ少なめと言わざるを得ない。けれども補修前は、同じ条件で盤上へ完全にヘタりこんでいたことからすれば、一応は成功とすべきだろう。あとは、実際の再生状態での検証だ。

 音、出ました。両chともちゃんとしている。盤を回転させると、針先を前(回転方向)へ引っ張る力が発生し本体がやや下がるから、クリアランスは僅かに小さくなり、1mmを若干下回るくらい。欲を言えばもう少し確保したいところだが、補修第一段階としては、これくらいで良しとする。少なくとも、普通に音が出るところまでは、回復させることができたのだ。

 今のところ音は極めてマットウである。異音が出ることはなく、もちろん底打ちもなく正常に再生できている。レコード外周部でもOK、少々のソリならサスペンションが吸収している様子。

 但し、これがMC-L1000本来の音かどうか、今後時間をかけて検証する必要はあると思う。なにしろ、シロウト作業で振動系に手を入れてしまったのだから。この件については後日、補修作業の功罪として述べる。

 次は、補修第二段階、である。

’10/09/23 (木)

息を止め、目を瞬かせ


 劣化ダンパーの理想的な補修は、言うまでもなく新しいものへの交換である。NGを承知でメーカーに問い合わせてみた。元々そのような修理はしていないし、そもそもとっくの昔にパーツがない、ということであった。まあ、当然である。

 交換できない、となれば、現状のまま弾性を復活させるしかないわけだ。掲示板上の投稿には「二液性弾性接着剤を使用」とあった。それがどのようなものかと調べてみると、どうやら弾力性エポキシ樹脂系接着剤であるらしい。使い方は従来のエポキシ樹脂系接着剤と同様だが、硬化後はゴムのような弾力を持った樹脂になるタイプである。

 硬化後も弾力を持つ接着剤、或いは充填剤と聞き、僕が真っ先に思い付くのは、シリコンコーキング剤である。サッシや浴室に頻用されるヤツである。おそらくそれでも補修は可能だと思う。しかし、溶剤を含んでいるのが引っかかるのだ。硬化後の減量・収縮が大きい。溶剤が気化するときの悪影響も気になる。

 エポキシ樹脂系接着剤ならば、基本的には樹脂100%(硬化剤としての溶剤は使用されている)で、硬化後の減量・収縮も少なく、優れた充填剤としても使える。しかも一定の弾性を保つとなれば、ダンパー補修には、より適していると考えられる。投稿者氏も、同様の判断をされての選択だったのだろう。

 実際に使った接着剤は、コニシボンドの「ボンド MOS8」というものである。A剤(変性シリコーン樹脂、3級アミン/ 100%)とB剤(エポキシ樹脂 / 100%)を容量比で1:1混合して使うタイプだ。

 二液をよく混合攪拌し、先端をカッターで削って細くした爪楊枝につけ、注意深くダンパーをコーティングする。できるだけダンパー部分だけに塗布する。特に、カンチレバー側には、はみ出ないようにしたい。理由は、長くなるから省略。アナログ好きの方なら、お分かりだろうと思う。

 殊更に用心すべきは、ダンパー上側(写真では下側)への塗布である。ここにはプリントコイルからの極細リード線が通っている。これに楊枝を引っ掛ければ、もちろん一巻の終り。微量の接着剤を付着させるだけでも、おそらくヒジョーにグワイが悪いだろう。息を止め、老眼の目を瞬かせながら、決死の作業である。

 そのようにして塗布を終わったところが、上の写真である。まあまあ上手く行った、ように思う。実用強度に達するまでなら、30℃で5時間程度だが、最終強度に達するまでの24時間、静置する。

 補修成功、となるかどうか。

’10/09/22 (水)

ダンパー劣化


 実際の作業について触れる前に、どうしても書いておかねばならないことがある。

 以下に述べるMC-L1000修理作業は、僕という無知なシロウトが破壊覚悟、ダメモトで実施した無謀な冒険である。他の方には絶対にお薦めできないし、おそらく実行されないほうがよいと思う。したがって、同じことをされて壊れてしまったバヤイの責任は一切取れない。そのことを、よくお含みいただきたいと思う。

 さて、上の写真はMC-L1000下部カバーを外したところである。黒くクワガタのアゴのように見えるのがマグネットヨーク。そのスキマ(磁気ギャップ)に、カンチレバーの先(スタイラスのほぼ真上:写真では真下)に付いた微細なプリントコイルが挟まっている。

 カンチレバーの根元と支持部の間に見える青緑色の物体、これがダンパーである。ポニョポニョしていて、ゴムとスポンジを足して2で割ったような質感だ。この個体のトラブルは、ダンパーが劣化し弾性を失い、カンチレバーを復位させられなくなっているのが原因と思われる。

 写真ではわかりにくいけれども、よーく見ると針圧を印加したときに圧縮される側(写真では下方)へ向って変形している。圧縮されたまま戻らなくなっているのだ。言わば、常時針圧印加状態、である。そのようなところへさらに針圧をかければ、沈み込みが正常範囲を超えるのは当然である。

 このままではグワイが悪い。カンチレバーを正常な、つまり針圧ゼロ状態の位置まで復位させねばならない。ヨークとカンチレバー支持部の間に僅かなスキマがある。そこへ極細のテグス(φ0.128mm)を通し、カンチレバーの根元から写真上方へ向って引っ張り上げる。

 このバヤイのチカラ加減は非常に微妙である。弱いと復位し切らないし、強すぎるとプリントコイルがヨークに接触し、致命的なダメージを与えかねない。注意深く、しかしある程度は大胆に、引っ張っては確認するを繰り返し、まあまあのところまで復位させることができた。

 次は、劣化したダンパーの補修である。

’10/09/21 (火)

遅疑逡巡の末


 上の写真は皆様ご存知、ビクター MC-L1000である。この個体は以前、中古で手に入れたものである。昔から縁のある中古ショップで、ヘッドシェルPH-L1000とセットで買った。元箱、取説、付属品、なーんにもなし。どうしたことか、リード線すら付いていなかった。

 このカートリッジ、現在でも人気が高く、状態の良いものなら新品価格を遥かに上回るような値で取引されている。シェルも同様である。なのにこのセットは激安であった。実は、本体には動作に、シェルには指掛けに、大きな難があったのである。

 指掛けはともかく、問題は本体である。標準的な適正針圧(1.5g)を印加した時、カンチレバーの沈み込みが大きく、底面と盤とのクリアランスが充分に取れない状態だったのである。実際に使ってみると、まったくそのとおり。音そのものには問題ないようだったが、盤とのスキマは髪の毛1本ほど(正に『間一髪』だ)しかない。外周部、或いはソリの大きな盤では底を擦ってしまう。

 それでも適正範囲内で針圧を軽めに設定すれば、しばらくは使えていた。しかし基本的に傷んでいたのだろう、ついには盤面にヘタりこんでしまって完全にアウト。音はちゃんと出ていただけに惜しいと思ったけれども、仕方がない。

 何とか修理できないものかと、各方面へ手を尽くしてみたものの、やはりNGである。諦め切れぬままお蔵入り。させていたところへ、ある掲示板上に、同じような症状のMC-L1000を修理、しかも成功した、という記事を発見した。

 これは朗報。しかし僕のようなガサツな者に、MC-L1000の振動系を修理する、などという微細な作業が可能なのだろうか。何度も記事を読み返し、やろうかやるまいか、遅疑逡巡。失敗すれば完全に使用不可能、けれどもこのままにしておいても使用不可能であることに変わりはない。それなれば、ここは一発賭けてみるか。

 神(僕のバヤイ、仏)をも恐れぬ所業に、打って出たのである。

’10/09/20 (月)

ワイドレンジ


 僅かのプラチナを加えただけ、とは思えないような、明確な違いがあることに、またまた驚くのである。このシリーズのハンダは、何とも不思議なものに思えてしまうのだった。

 4番手で聴けた明るさ、しなやかさ、瑞々しさはそのままに、透明感と切れを足したような音色である。ローハイのレンジはぐんと拡大され、音楽が益々楽しくなる。特に低域はパワフルにして豪快、ストレス感皆無で楽に音が噴き出してくる感じ。

 2番手よりも音楽ファン向きの音であると同時に、サウンドマニアも充分納得させる音。今回聴いた5つの中では、最も高いレベルでバランスしたリード線ではないかと思う。個人的には、これが選択順位第1位、かな。

 友達の厚意により、10日間にわたって5つのART2000を聴くことができた。リード線の重要さを、改めて思い知り、僕にとってはたいへん貴重な体験が得られたと、大いに喜んでいる。特に、ハンダによる音の違いには、心の底から吃驚仰天。今もキツネに抓まれたような気持ちである。

 心から御礼申し上げたい。ありがとうございました。

’10/09/19 (日)

5番手


 さてドン尻に控えしは、PCOCC-Aの芯線を「プラチナゴールドニッカス」というハンダでチップに繋いだリード線である。ゴールドニッカスに貴金属プラチナを加えた、超高級ハンダである。

 だから良い音になるのか。それは何とも言えないと思う。けれども、ゴールドニッカスなるハンダを使ったリード線の音は、2番手で強烈な印象を受けたのも事実。良し悪しはともかくとして、どのような音の変化があるのだろうか。

 試聴が楽しみである。

’10/09/18 (土)

明るくスムーズ


 3番手に比べると、スピード感ではやや劣るものの、しなやかさ、瑞々しさという点では、この4番手に分があると感じた。ストレスなく、音がスムーズに出てくる印象なのである。音色に暗さがなく、晴れやかである。

 どんなジャンルの音楽を聴いても、明るく楽しい気持ちになる。これは2番手で聴いた音にも共通するわけで、やはり僕は明るい音が好きなのだ。

 鋭い切れこみ、叩きつけるような迫力、などはやや控えめだから、リスナー・装置によっては食い足りない音になる可能性もある。拙システムとの相性はたいへん良く、これまでに聴いた4個体のうちでは最もリラックスして聴ける音である。

 いよいよ次は5番手、今回のART2000試聴も終盤である。

’10/09/17 (金)

4番手


 4番手に具されたリード線は、PCOCC-Aという線材である。末尾の「A」は、アニール処理を施してある意だと聞いた。アニール処理とは、焼き鈍し(焼鈍:しょうどん、とも)のことだそうだが、僕のようなシロウトに正確な解説ができるわけもないから省略。アニールしないPCOCCよりも、随分と柔らかいらしい。

 ハンダは2番手3番手と同じく、ゴールドニッカス。線径・断面積は更に大きくなって、0.48sqある。1番手2番手から見ると、33%増。市販品にこれほど太いシェルリード線があるのかどうか。少なくとも僕は寡聞にして不知である。

 僕は基本的に、太い線が好きであります。

’10/09/16 (木)

ハイスピード


 1番手から5番手まで、どれを写真にとっても全部ART2000である。変わり映えしないことを、どうかご容赦願いたいのである。

 さて、3番手である。これまで聴いた中では、最もスピード感のある音だ。低域の締りが良く、ハイも切れがありよく伸びている。前二者と比較すると、かなりハードでクールな音である。

 ただ、中域に僅かの歪みのようなものがあり、やや透明感を害しているようにも感じる。1番手にあったピーキーな感じとはまた違った印象である。これはどうもリード線の所為ではなく、カートリッジそのものの個体差ではないかと、思う。しかし決して不具合とか不調とか言うようなレベルのものではない。

 音に勢いがあり、前方への張り出しがすごい。その分、音場の深さ、立体感が殺がれるきらいはあるけれども、このパワフルさは痛快そのもの。

 2番手でハードルの高さが上がった直後の3番手は、少々気の毒。

’10/09/15 (水)

3番手


 3番手は、リード線の線材にLC-OFCカンタムを使ったタイプである。断面積は0.44sqと、若干太くなっている。接続用のハンダは、昨日の試聴でびっくらコイた「ゴールドニッカス」である。

 LC-OFCカンタム、というと、僕の記憶では日立電線の製品ではなかったかと思う。1984年頃だったか、ケーブル競争の黎明期、僕が初めて買った高級ケーブルが日立電線のLC-OFCタイプであった。カンタムはその改良高級バージョンで、欲しくても高価で買えなかった。

 その後、スピーカーケーブルを含めた日立電線の製品を使ったことがある。おしなべてシャープでハイスピード、ややツッパリ感のある音、という印象だった。随分と昔のお話だから、ほとんどアテにはならない。

 3番手、どんなグワイでしょうか。

’10/09/14 (火)

これはビックリ


 2番手を聴いて驚いた。明らかに音が違うのである。ハンダが違うだけでこれほどの差が出るとは、俄かには信じ難い。僅かな差ではなく、エラい違いなのである。「聴き分けられるか」どころの騒ぎではないのだった。

 誤解を恐れずに言えば、ベタボメしてしまったあのAT-OC9/IIIに肉薄する、力強さと音の濃さがある。良い音だが何となく面白くない、のが僕のART2000に対する印象。そんなのは雲散霧消、何を聴いても実に楽しい。音に躍動感が漲っている。

 どの帯域がどう、などというような差異ではなく、音の形(なり)そのものが違う感じだ。なるほど、製作者氏はART2000をこのような音で聴いていたのか。ズルイなあ。

 ハンダが音に与える影響とは、恐ろしいほど大きいのだ。そのことを、初めて実感した。これはなかなかの衝撃である。ゴールドニッカスを「何だかアヤシイ」だなんて、たいへん失礼致しました。

 さて、次なる3番手は、2番手と同じハンダ、線材・断面積違いのリード線を具したタイプである。どんな音に仕上がっているのだろうか。

 試聴を続ける。

’10/09/13 (月)

2番手


 2番手である。シェル、リード線の線材、断面積はまったく同じ。芯線とコネクターチップを接続してあるハンダに違いがある。今回のものは、K.O.サウンドラボ製「ゴールドニッカス」なるハンダを、使用してある。

 詳しくは当該webページを検索していただくことにして、相当にこだわりの強いハンダである、らしい。些かアヤシい雰囲気く(失敬!)でもあるけれども、まあ、結果音が良ければグッドなのだ。

 それよりも何よりも、ハンダの種類による音の差異、などというようなビミョーなモンが、僕のタコ耳で聴き分けられるのか。それが一番の問題である。製作者氏曰く「大丈夫だ」と。ホントかな。

 つまらん言い訳してないでさっさと聴け。

’10/09/12 (日)

得手不得手


 わずか薄味で女性的、などと言いながら、機嫌よく1番手ART2000の試聴を続けている。昨日から色々なジャンルの音楽を聴くうち、ややソフトを選ぶ傾向があることに気がついた。

 どちらかと言えば、ロックやポップスが得意なふうである。大編成オーケストラなども、スケール感があり、しかもしなやかでヒジョーに良い。

 対して、シンプルに録音された(と推測される)小編成女性ジャズボーカルなどは、あまり得手ではないようだ。ボーカル帯域に、少々のピーク感が出るのである。特に声を張った時などは、ちょっと気になる感じ。但しこれは、リード線の所為ではないと思う。

 僕手持ちのART2000でも、その傾向があるからだ。これまでの経験では、金属シェルと組み合わせたバヤイにその印象が強調されるようだった。

 カートリッジとシェルの組み合わせには、まあ、イロイロあるわけです。

’10/09/11 (土)

1番手


 友達推奨の順序により、試聴を進める。1番手は、スーパーアニールOFC 0.36sqを使い、和光テクニカルの無鉛銅入り銀ハンダ SR-4NCuで仕上げたリード線を具したバージョンである。

 これはとても良い音である。ART2000らしからぬ陰影の深さと力感が印象的である。金属製シェルの所為か、やや粘り気がありながらも、抜けが良い。エコーや楽器の余韻が豊かで綺麗。ちょっと演出過多、と感じないでもないが、個人的には大好きだ。

 ただ、このカートリッジの兄弟機とも言えるOC9/IIIと比較すると、やはりやや薄味で女性的だと思う。特に中低域で違いが大きい。尤も、僕が聴いてそう感じるだけのお話であって、両者の優劣を決めるものではない。

 2番手以降の試聴も、楽しみである。

’10/09/10 (金)

試聴開始


 友達から借り受けているAT-ART2000の試聴を始めた。5台をできるだけ手際良く付け替えたい、ということで、ADプレーヤー1号、EPA-100MkIIで試聴する。このアーム、超高感度で音が良いのはもちろん、使い勝手も最高なのである。

 カートリッジとシェルの組み合わせはすべて同じでも、リード線の違いや個体差で総重量にはバラつきが出る。1台目の実測重量は27.42g。やや重めである。MC-L1000+PH-L1000の組み合わせが27.00g〜27.02gくらいだから、充分使用範囲内に収まる重さだ。

 さて、5台の微妙な音の違いが、僕に判別できるかどうか。

’10/09/09 (木)

ガタ取り


 MC-L1000を取り付けてあるヘッドシェル、PH-L1000の指かけ部分にガタつきを感じ始めたのは、もう随分前のことである。カーソル部に起因するものではなく、カーソル部と指かけバーの接合部分でガタが出ているらしいことだけは判明するも、さりとてどうすることもできず、今日まで放置してあったわけだ。

 近頃、それがだんだんひどくなってきて、さすがにキボチ悪い。こんなところにガタつきがあれば、悪いことはあっても良いことなど一つもないのだ。ここは意を決し(大げさである)、解決策実行に乗り出そう。

 接合部をよく観察すると、カーソルとバーは直径1mm(或いはそれ以下)程度のマイナスイモネジで固定してある。このネジが経年によって緩み、ガタが出ているのだ。締め直せば、問題解決するはず。

 イモネジは穴の奥に引っ込んでいる。しかも、直径が小さいから、精密ドライバー(−)の最小タイプでも太すぎて入らない。そこで一計。ドライバーの先端をヤスリで削り、幅を狭めてみる。これが上手く行った。

 一旦ネジを完全に緩め、バーを外したところが上の写真である。このあと、挿し込み穴の周りを掃除しネジをガッチリ締め直すと、ガタは完全に消えた。大成功である。こんなことなら、もっと早くにやっておくンだった。

 瑣末なことだが、何だかとても嬉しい。

’10/09/08 (水)

ART2000×5


 台風一過、秋の空。とは行かない今日の天候であった。風も雨も大したことはなく、まあ、平穏無事であったのは幸いだ。ただ、ヒジョーに湿度が高く蒸し暑い。季節は秋だが空気は夏のままである。

 というような日の午後、友達から写真の如くのモノが、届いた。FRのカートリッジキーパーに収められているのは、オーディオテクニカかつての名機、AT-ART2000が5台である。なかなかに壮観だ。

 すべてテクニカのシェル、AT-LH18/OCCに、同一のビス(アルミか)で取り付けられていて、リード線だけが違えてある。リード線による音の違いを試聴しよう、という企みなわけである。

 ART2000を5台も所有されていること自体驚きだが、それらに別バージョンの自作リード線をあてがい、更に音の違いをきっちりと聴き分け管理している。そのこだわりには、感嘆の声をあげずにはいられない。ここまでやるか。

 リード線はすべて友達の手による自作である。先日、PARNASSUS D.C.tに具したものと同じ製作者である。例によって、5種いずれも市販品より太く硬く頑丈そうにできている。5台を順次試聴して行くわけだが、こりゃ生半なことでは、遺憾のである。

 気合を入れて、聴かねば。

’10/09/07 (火)

耐風猛暑


 台風9号が近づいている。天気予報によれば、当地はこれから明け方にかけて風雨が強まるらしい。今、外は雨である。けれども小降りで風もなく、至って穏やかなものだ。嵐の前の静けさ、なのだろうか。

 8月12日に最接近した台風4号と、ほぼ同じような進路である。日本海横断コースだ。未だ太平洋高気圧の張り出しが強く、その縁を沿うように進んでいるわけである。典型的な夏台風のコース取り。もう9月なンだけどなあ。

 この台風が過ぎ去れば、夏は本当に終わる。と思ったら、9日からは再び猛暑になるそうだ。個人的には暑いほうが好きだけれども、各方面でいろいろな不グワイが出ていると聞く。特に、空調設備のない学校で勉強する児童生徒は、如何にもたいへんである。

 台風でも吹き飛ばない、今年の暑さである。

’10/09/06 (月)

相性抜群


 友達謹製シェルリード線を得て、力強く晴れやかな音を再生するに至ったPARNASSUS D.C.tである。C-17は、今のところこのカートリッジに固定して試聴している。

 相性は、大変に良いと思う。力強さ、さらに増強。初めて聴いたときに感じた、腰の弱さみたいな部分がほとんど気にならなくなった。独特の繊細感、清らかさ、静謐感は一切殺がれない。チタン無垢カートリッジベースのメリットが、存分に発揮されているような音である。

 同じMCヘッドアンプであっても、C-17とH-Z1では随分と音が違う。当たり前のお話である。個性の違い以外に、組み合わせの妙、ということもある。これまた当然。理屈として分っていても、こうも如実にその実際を聴くと、オーディオの面白さを改めて実感するのである。

 まずは、何でも実践することが、大切なのだ。

’10/09/05 (日)

置き場所


 ADプレーヤー2号と新来C-17の位置関係は、このようになっている。何のことはない、H-Z1と入れ替わっただけのことである。

 僕はC-17のルックスが大好きで、本当なら正面表から見える場所に置きたいところ。しかし、諸々の事情がそれを許さない。致し方なく裏路地のような所へ押し込んであるわけだ。

 見栄えという点では冷遇しているようで、実は、そんなに劣悪な条件ではないのだ。ラック内に置くよりも放熱効率はずっと良い。微小信号を扱うアンプでありながら、C-17は発熱が多いのである。プレーヤーに近く、しかもプリアンプとの位置関係がL型になるから、ケーブル接続にストレスが少ない。

 パワーアンプ(P-700)に近接しているのが、ちょっと気になるところではある。と言って他に置き場所はなく、まあ、これでいいのだ。

 今日も幾枚かのADを聴いた。益々好調である。

’10/09/04 (土)

文句なし


 HX-10000の使用を一旦中断し、友達から譲ってもらったC-17の試聴に移る。と言っても、このヘッドアンプは既にADプレーヤー1号のほうで10年以上使い続けている。音の良さは充分過ぎるほど承知しているわけだ。

 C-280Vのフォノイコライザーとの組み合わせで聴くのは、とても久しぶりである。AE86さん謹製フォノイコライザー導入以前、以来である。

 凄く良い音です。とだけ書いて報告を終わりたくなるほど、良い音である。なんだかもう、次元が違う感じ。瑞々しくて活き活きしていて、音に潤いがあり繊細で、しかも切れと抜けが良く透明感抜群。中低域の充実感も半端ではない。パワフルそのものだ。

 歪み感極少、情報量極大。音場広大、音像実物大。極めてリアルで生々しい。はっきり言って、僕には文句のつけ様がありません。

 ADプレーヤー1号2号の音の違いは、このアンプに拠るところが大きかったのかと、独り膝を打ってしまうのである。H-Z1もHX-10000も、素晴らしいアンプであることに間違いはない。けれども、僕の耳にはC-17が相性最良だと、改めて感じ入った次第。このような音を聴かされてしまうと、最早他は使いにくくなってしまうのである。

 友達には心から感謝したい。本当に、ありがとうございます。

’10/09/03 (金)

旧友から


 旧くからの友達より、写真のようなものが届いた。どちらも永く大切に使われてきた装置である。今回、ある事情から拙宅へ移籍することになったのである。

 彼は僕より少し若いけれども、オーディオマニアとしては大先輩である。20年以上前に知り合い、以来僕はずっと彼を頼りにしてきた。箱船以前、隠寮2階物置部屋オーディオ時代から僕の音を知る、唯一の人でもある。

 その友達に使われてきた装置を、今僕が使う。ありがたいご縁だと、心から喜んでいる。古い装置だが両者とも状態は完璧で、まったく問題なし。今すぐにでも稼動開始できるのだ。

 では早速、C-17から。

’10/09/02 (木)

アームケーブル1年


 このアームケーブルを使い始めて1年が経った。Zonotone 7NTW-7060 Grandio(S) である。名前長い。

 クセがなく素直な音、しかし惜しいかなやや暗めの音調、というのが当初の印象だった。1年使ってどうなったか。

 生硬さが失せ、かなりスムーズになった。暗さはさほど気にならなくなったけれども、やはりハッとさせるような音ではないと思う。おとなしいというか、或いは極めてニュートラルというべきか。大きな不満はないものの、もう一息何かが足りない感じは残っている。

 さりとて他に良いものがあるかというと、なかなかに難しいのである。気になるモデルは2、3ある。しかし、ちょっと買って試してみるには、あまりにも高価。困った困った。

 結局、当分は現用モデルを使い続けることに、なるのだろうな。

’10/09/01 (水)

いちばん素敵な季節が


 8月は恐ろしい速さで過ぎ去ってしまった。随分と忙しかった、はずだが、終わってしまえば一抹の寂しさを禁じ得ないのは、毎年のこと。きっと人生もこのようなものなのだろうな。

 9月になっても猛暑は終わらない。今日も当地は36℃超えである。暑い暑い。けれどもニイニイゼミ、ヒグラシ、アブラゼミの声が消え、日没は目立って早くなった。熱帯夜でも草むらでは秋の虫が鳴いている。もう夏ではないことは、確かなのだ。

 先月29日、盟友憲さんのお寺で法要があった。例によって暑い日であったけれども、終わったあと庭に散るサルスベリの花を一緒に見ながら「夏が終わるなあ、寂しいなあ」と、夏ボウズ2人は呟くのであった。

 素敵な季節が、終わる。